四半世紀単位の技術革新

 DTP(DeskTop Publishing)やデジタル印刷などを代表とする印刷工程のデジタル化は、日本の印刷関連業界に変化を及ぼし、印刷会社の収益性に影響を与えました。これは、20年前には一般的に予想されていなかった変化について、さらに10年前にあたる30年前に確信し、人生を賭けて取り組んだ人々の結果ともいえます。

 マイクロソフトのビル・ゲイツでも、OS(Operating System)で市場を圧倒するまでに、30年近い年月を必要でした。社会を変える技術は、揺籃期から定着している事例と置き換わるまでに、四半世紀かかる傾向があるといわれています。

 DTPは1990年代後半から日本で普及しましたが、根幹となるアドビの技術であるPostScriptによる印刷工程の制御が認められるようになったのは、1990年頃のことでした。PostScriptは、PDL(Page Description Language:ページ記述言語)の1つです。コンピューター上で作成された文書や画像などを印刷する際、プリンターへの出力イメージ(コンテンツデータ)を記述し、プリンターに指示を与えるプログラミング言語です。

 1980年代には、同様の目的で使用されるプログラミング言語が複数存在しました。印刷物の出力イメージを記述する言語はPDLであるといった考え方は、DTPの普及に大きく寄与しています。また、PDLは、1970年代のコンピューターを使用し設計や製図を行うシステムであるCAD(Computer Aided Design)から派生した技術です。

 PostScriptは、文書や画像による出力イメージを記述しプリンターからの出力を可能にしますが、それは印刷工程の1部に過ぎません。ここで注目すべきことは、PDLでは不可能なことを実現することであり、様々な分野へ影響を与えることです。

 DTPによるコンテンツデータの制作により、分業や連携が実現しましたが、統合化も必要です。

 AR(Augmented Reality:拡張現実)、SNS(Social Networking Service)など、様々な注目される技術やサービスが存在しますが、今後の「核」となる「技術やサービス」を考える必要があります。デジタル化が進んだ社会環境では、コンテンツデータを出力するメディアが紙であっても、データを送信し瞬時にレイアウトを行う処理は同一です。

 したがって、様々なメディアにおいて「共通」に使用される「技術やサービス」が、今後の「核」であると考えられます。

 CADが印刷物のために開発されたシステムではないように、様々な技術は関係性が低いと感じられる分野からの影響を受けることがあります。

 昨今のソフト(ソフトウェア)は、様々なことを想定し開発されており、Adobe Creative Cloudには、XMP(Extensible Metadata Platform)によるXML(Extensible Markup Language)に関する情報を扱う機能が備わっています。かつてのPostScriptは、当時のプリンターで対応できない内容を記述する仕様がありました。しかしながら最終的には、高い解像度を要求されるCTP(Computer To Plate)に対応し、標準的な技術として残る結果につながりました。

 Adobe XMPがサポートするXMLのメタデータセットは、現状のビジネスモデルへの適用を越える機能があり、その背景にあるメディア活用といった側面では、社会を変えるほどの技術とは、W3C(World Wide Web Consortium)によるセマンティックWeb(Semantic Web)の構想に従い、発展しようとしている技術群であるといえます。ティム・バーナーズ=リーがセマンティックWebを提唱した際、文書に記載したことが、実現へ向かって進んでいました。